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スースー Vol.38(2026/8/15発行)掲載

コラム

非効率こそが来店理由になる?丸亀製麺に学ぶ店づくりの視点

非効率こそが来店理由になる?丸亀製麺に学ぶ店づくりの視点

[TIP 01]あえての手間が価値になる

釜から上がる麺、揚げたての天ぷらの匂い、スタッフが生み出す活気、そしてコシのある食感。丸亀製麺の店内には、食欲を刺激する要素がいくつもあります。おいしく、価格も手頃で、家族連れにも人気です。しかし、同店の魅力は、うどんそのもののおいしさだけではありません。店内で麺が作られ、茹でられ、天ぷらが揚がる。その一連の光景が、お客様の記憶に残る体験になっています。
丸亀製麺は、日本国内だけでも800を超える店舗網があるブランドでありながら、全ての店に麺職人がいて、各店舗で粉から麺を作るスタイルを続けています。これは、効率だけを考えれば決して簡単な選択ではありません。麺を作るには人手がかかります。茹で上げには大量の水も必要です。セントラルキッチンでまとめて製造すれば、コストを抑えられる部分もあるでしょう。しかし、丸亀製麺はあえてそうしていません。なぜなら、店内で作るからこそ生まれるライブ感が、お客様の来店動機になっているからです。
今、飲食店を取り巻く環境は厳しさを増しています。原材料費は上がり、人件費も上がり、水光熱費の負担も重くなっています。その中で、いかにコストを抑えるかは重要な経営課題です。無駄を見直し、効率化を進めることは、これからの飲食経営に欠かせません。
ただし、ここで考えたいのは、削ってはいけないものまで削っていないか、という点です。お客様に来店してもらえなければ、どれだけ効率化しても売上にはつながりません。競争が激しくなる中で大切なのは、店を思い出してもらう理由を作ることです。丸亀製麺の場合、それが手作りのライブ感です。作っている姿、湯気、音、匂い、できたて感。それらが重なり、「また行きたい」という記憶になります。

[TIP 02]エスニック料理店にも生かせる体験価値

丸亀製麺の取り組みは、エスニック料理店にも大きなヒントになるはずです。とはいえ、「うちは厨房が見えにくいクローズドキッチンだから難しい」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、エスニック料理店は個店が多く、店ごとの個性を出しやすい業態です。香辛料の匂い、鍋を振る音、色鮮やかな料理、異国を感じさせる店内の空気といった要素は、他の店にはなかなかありません。だからこそ、それらは単なる作業や雰囲気ではなく、異国感を伝える大切な価値になるでしょう。
例えば、オーダーを通す時にあえて現地の言葉を使う。提供時にテーブルでソースをかけたり、ライムを絞ったり、混ぜて仕上げたりして、エスニックならではの香りが伝わる設計を意識する。こうした工夫は、大きな投資をしなくても、お客様の記憶に残る体験を作ることができます。
経営的な視点で見ると、非効率に見える作業かもしれません。手間と時間がかかるため、削りたくなる作業であるのも事実です。忙しいランチタイムであれば、なおさらスピードを重視したくなるでしょう。
ただ、味や価格だけで勝負すると、競合の中に埋もれてしまう可能性があります。コンビニやスーパーも含めて食の選択肢が広がる今、味や価格だけで選ばれることは簡単ではありません。
一方で、体験は簡単には真似できません。お客様の記憶に残る体験を提供できれば、「また行きたい理由」につながります。それこそが来店動機です。まず来店動機がなければ、どれだけ効率化しても意味がありません。手間が価値をつくり、店の魅力になっていくといってもいいでしょう。

[TIP 03]削るべき無駄と、残すべき手間

テクノロジーの活用によって、飲食店の業務はこれからさらに効率化されていきます。注文、会計、予約、発注、在庫管理など、多くの業務が便利になるでしょう。それ自体は大切なことです。しかし、全てを効率化すれば店の魅力が高まるわけではありません。逆に、没個性的になってしまうリスクもあります。周りの店が効率化を進めれば進めるほど、あえて残した手間の価値が高まることもあるはずです。
それは、お客様だけでなく、働く人にとっても同じです。働く人も、ただ機械のように効率化された作業だけをしたいわけではありません。自分の仕事がお客様に伝わり、価値として受け止められるからこそ、前向きに働くことができます。スタッフがイキイキと働く姿もまた、店のライブ感をつくる大切な要素になります。
削るべき無駄と、残すべき手間は違います。丸亀製麺が教えてくれるのは、非効率そのものではなく、非効率に見える手間が価値になるということです。店の個性は、必ずしも新しいメニューや大きな広告から生まれるわけではありません。日々の調理や接客の中にある手間、音、匂い、動きの中にこそ、お客様が忘れられない価値が隠れているのです。


<筆者紹介>
三輪大輔

外食ビジネスアナリストとして、外食産業を中心に企業戦略やDX、業界構造の分析・取材を行う。2019年より『月刊飲食店経営』副編集長を務め、2021年には著書『外食業DX』を出版。これまでに取材した外食関連の経営者は500名近くに及ぶ。現場取材で得た一次情報と経営視点を掛け合わせた分析を強みとし、「ガイアの夜明け」などメディア出演も多数。近年は企業のビジョン策定や情報発信支援にも携わっている。

Miwadaisuke


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