[TIP 01]モーニング営業の2つのメリット
外食チェーンの取り組みや人気店の繁盛のヒントを手がかりに、個店の店づくりや集客に役立つ視点をお届けします。今回取り上げたいのは、株式会社サイゼリヤが展開する「朝サイゼ」です。
今、モーニング市場が盛り上がっているのをご存知ですか?
とある調査によると、2025年のモーニング市場は5347億円規模となり、前年比3.2%増。コロナ禍前と比較すると、なんと24.5%も伸びています。共働き世帯の増加や生活スタイルの変化を背景に、外で朝食を済ませる人が増えているということでしょう。その中で注目したいのが、サイゼリヤが始めた「朝サイゼ」です。
モーニング営業には、大きく二つのメリットがあります。一つは分かりやすく、売上機会の拡大です。しかし、より大きいのはもう一つの方かもしれません。それが、来店の習慣化です。
サイゼリヤは、手頃な価格で利用しやすいファミリーレストランです。ランチやディナー、休日の家族利用など、幅広い場面で選ばれてきました。2025年8月期の売上高は2567億円と、前期比14.3%増となり、過去最高を更新しています。
そうした好調なサイゼリヤでさえ、「朝サイゼ」によって朝の時間帯に新たな接点を作ろうとしています。その背景には、朝の利用をきっかけに、お客様との関係をさらに深めたいという狙いがあるように見えます。
[TIP 02]習慣化を狙うモーニング営業
「朝サイゼ」は、2025年9月に「大島ピーコックストア前店」(東京都江東区)で始まり、2026年6月末現在、全国22店舗まで広がっています。その特徴は、何といっても価格の安さです。「焼きシナモンフォッカチオ コンビ」は300円でドリンクバー付きなので、「その価格で利益が出るのか」と考えたくなるかもしれません。
もちろん、テクノロジーの活用によって少人数でのオペレーションを実現し、コストを抑えた営業を可能にしているのでしょう。それでもモーニング営業を行うのは売上だけでなく、店を思い出してもらう機会を増やすことに大きな意味があるからです。おいしい店が増え、食の選択肢も広がる中で、「どこに行こうか」と考えた時に、まず思い出してもらえなければ来店にはつながりません。
そこで生きるのがモーニング営業です。モーニングには習慣化しやすいという強みがあります。昼食や夕食は、その日の予定や相手によって店選びが変わります。一方で、朝食は生活のリズムに組み込まれやすい時間帯です。出勤前に立ち寄る。散歩の帰りに寄る。子どもを送った後に利用する。そうした小さな習慣が生まれれば、店の利用回数は自然に増えていくでしょう。
味や価格だけで選ばれることが難しくなる中で、生活の中に入り込むことは大きな価値になります。朝の利用をきっかけに店を知り、安心感が生まれ、別の時間帯の利用につながる。そこにモーニング営業を行う意味があります。サイゼリヤの価格設定にも、朝の利用ハードルを下げ、まず一度来店してもらう狙いがあるのではないでしょうか。
[TIP 03]エスニック料理店にも広がる朝の可能性
サイゼリヤの取り組みは、エスニック料理店にも大きなヒントになります。
モーニング営業は、立地に関係なく新しい客層にアプローチするきっかけになります。住宅地に近い店であれば近隣に住む人、駅前やオフィス街に近い店であれば通勤途中の人など、朝に軽く食べたい人に店を知ってもらえるチャンスになるでしょう。
もともとタイやベトナムでは、朝食を屋台や市場で食べたり、外で買って帰ったりすることが日常の一部になっています。実際、現地ではフォーやおかゆ、バインミーは、朝食としても非常に人気です。そうした食文化を手がかりにすれば、エスニック料理店ならではのモーニングメニューも提案しやすいのではないでしょうか。
日本でも、朝食に求められる価値は変わりつつあります。しっかり食べたいけれど重すぎるものは避けたい。短時間で済ませたい。温かいものを食べたい。少し健康的なものを選びたい。そう考える人にとって、米麺やおかゆは相性の良いメニューです。
モーニングブームの主役はパンやコーヒーです。もちろん、その文脈に沿ったメニューは受け入れられやすいでしょう。しかし、市場が広がっている今、朝食に求められるニーズも多様化しています。温かいスープ、やさしい味のおかゆ、軽く食べられる麺料理。そうした商品は、エスニック料理店ならではの提案になるだけでなく、モーニング市場そのものをさらに広げていく可能性も秘めています。
[TIP 04]朝の習慣化が、来店動機になる

経営的な視点で見ると、モーニング営業は簡単ではないかもしれません。仕込みや人員配置、営業時間の延長、オペレーションの見直しなど、考えるべきことは多くあります。売上だけを見れば、すぐに大きな成果が出るとは限りません。
それでもサイゼリヤの取り組みが教えてくれるのは、朝は単に売上を足す時間ではなく、お客様との接点を増やす時間だということです。朝の一食は小さな利用かもしれません。しかし、その一食が習慣になれば、店はお客様の生活に溶け込んでいきます。モーニング営業は、新しい客層に店を知ってもらい、新しい利用目的を生み出し、店の可能性を広げるきっかけになるのです。
<筆者紹介>
三輪大輔
外食ビジネスアナリストとして、外食産業を中心に企業戦略やDX、業界構造の分析・取材を行う。2019年より『月刊飲食店経営』副編集長を務め、2021年には著書『外食業DX』を出版。これまでに取材した外食関連の経営者は500名近くに及ぶ。現場取材で得た一次情報と経営視点を掛け合わせた分析を強みとし、「ガイアの夜明け」などメディア出演も多数。近年は企業のビジョン策定や情報発信支援にも携わっている。


